実時間通信 (Real-time Communication)
近年、コンピュータネットワーク技術の発展と共に、遠隔地にある複数のコンピュータの持つリソースを有効利用する分散処理システムの構築が可能となりました。特に、分散システムの中でも時間制約に厳しいシステムを扱ったものを分散リアルタイムシステムと呼んでいます。遠隔地に散らばるサブシステム間の時間同期の研究、また情報伝達における遅延低減の研究を主に行っています。
実時間処理とは、あるデータの処理(通信)開始から処理(通信)終了までにかかる時間(遅延)が一定以下に収まるような処理(通信)の事を指します。
上図のsendという部分がデータの送信開始時刻を表します。青色の部分がデータの受信時間を表します。図の右側のように、定められた期限 (deadline) を超えてしまう事は、実時間通信の制約を違反している事を意味します。
S-TDMA (Synchronous-Time Division Multiple Access)
本研究室が独自に提案している通信システムです。既存の技術であるTDMA (時分割多重アクセス方式) を応用することで、これまでにない新たな通信形態の実現を目指しています。
一般に、パケットが通信機器を複数経由する際の遅延時間は様々な要因により変動するため、実時間性を保証できません。
そこで、新たな通信方式 S-TDMA について研究を行っています。
S-TDMAは、ネットワーク内の通信機器を時刻同期させて時分割で通信時刻を制御する事で実時間性を保証します。さらに、S-TDMAでは正確なスケジュール管理を行うことで、通常のアプリケーション通信を実時間通信と同じネットワークで共存させることができます。
SDN (Software Defined Network)
近年、クラウドやビッグデータの進展に伴いネットワークの制約が理想のICT (Information and Communication Technology) システム構築の障壁になっています。SDNとは、個別の機器設定が不要でネットワークをソフトウエアで動的に制御することを目的とする概念です。
従来のネットワークでは、スイッチング機器それぞれが独立して動作し、機能もそれぞれ固有のものとなります。この状態ではネットワーク全体の通信方式・形態を変更しようとした時にいくつかの不便が生じます。まず、機器の設定を一つ一つ変えなくてはならない事。そして、それまでなかった機能を追加したい時などは機器ごと取り換える必要性が出てくる事です。これらの問題点はコスト面の上で非常にネックとなります。そこで、ネットワークをより柔軟な構成にしようという試みが近年行われるようになりました。そのうちの一つがSDNです。SDNでは、スイッチング機器とは別に、それらを制御・管理するコントローラと言うものが存在します。ネットワーク全体の構成を変更したい時は、コントローラから各スイッチング機器に指令を出すことで可能となります。
本研究室では、SDNの中心となっているOpenFlowを利用し、S-TDMAの通信経路の資源予約を目的とした研究を行っています。
ライブビデオストリーミング (Live Video Streaming)
近年、インターネットの普及と情報通信網の高速化・広帯域化によりライブビデオストリーミングが一般的になりつつあります。
ライブビデオストリーミングは、テレビ会議、ビデオによる監視、ライブ中継などに用いられており、そのための圧縮符号化方式やデータ送受信の制御方法がいくつか実用化されています。しかし、多くは鑑賞用途を想定しており、再生遅延の小ささよりも画質を優先する傾向にあります。つまり、画面のカクつきよりも綺麗さを優先しています。一方で、遠隔操作や遠隔手術のような用途においては、低遅延であることやその操作のしやすさを考えれば、低ジッタであることが求められます。既存の圧縮符号化方式では、データ圧縮率向上のために、フレーム間予測が用いられています。フレーム間予測では前後のフレームを参照して符号化するので、符号化に数フレーム分の遅延が生じるという問題点があります。
本研究では、用途を遠隔操作と想定し、低遅延・低ジッタを実現するライブビデオストリーミングシステムの構築を目的としています。
リアルタイムコミュニケーションシステム
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無線通信 (Software Defined Radio)
近年、優先接続の必要の無い無線通信は消費者に広く利用されています。また一方、ネットワーク技術の向上とともに、ネットワーク上での動画の配信などのマルチメディア分野への応用がなされており、その中でもテレビ会議やライブストリーミングなどの大容量かつ高速通信を必要とする実時間アプリケーションも注目されています。しかし、デジタル無線通信では、通常の有線に比べパケットロスが生じやすいことが問題点として挙げられています。
通常のネットワークでは、パケットロスが生じた場合再送によりデータを保証します。しかし、実時間通信ではエラー率や往復遅延時間によってはパケットを再送せずに廃棄せざるを得ない場合もあります。ところが、高品質を必要とする実時間アプリケーションにおいては許容できるパケットロスはかなり小さく、そのため遅延やジッタへの対応は大きな課題です。
そこで、予めエラーがどれくらい起こるかを予測し、エラーが起きても残りのパケットでロスしたパケットを復元する前方誤り訂正 (FEC) と呼ばれる技術や、元のデータをいくつかの記述子(データ)に分割し、それぞれを異なる経路に送ることでリスクを分散させる多重記述符号化 (MDC) と呼ばれる技術を用いて、再送をせずに一定のエラー耐性を有する通信の実現を試みています。
主な業績
- Naoto Hagino, Masaaki Yamamoto, Takahiro Yakoh, Frame Transmission Time Control for TDMA-based Ethernet, 14th IEEE International Workshop on Factory Communication Systems, pp.1-8, June 13-15, 2018, Imperia (Italy)
- Shunpei Koyasu, Takahiro Yakoh, Implementation of Schedule Management Mechanism for S-TDMA Switch, IEEE 15th International Workshop on Advanced Motion Control, pp.575-580, March 9-11, 2018, Tokyo (Japan)
- 鞠谷達士,矢向高弘,実時間スケジューラの高精度時刻同期手法,電気学会論文誌C,Vol.138, No.6, pp.695-702, 2018.
- Tatsushi Kikutani and Takahiro Yakoh, A precise time synchronization method for real-time schedulers, Electronics and Communications in Japan, 2018;1-9.
- 森静奈,矢向高弘,無線マルチホップ通信の確率的性能予測手法,電気学会論文誌C,Vol.137, No.5, pp.701-708, 2017.
- 阿部太紀,矢向高弘,低遅延ライブビデオストリーミングのための時間周波数推定に基づく送信ブロック画像選定手法, 電気学会論文誌C, Vol.134, No.12, pp.1888-1896, 2014.
- 上田和樹,鞠谷達士,矢向高弘,多重リングバッファ機構を用いた実時間通信とIP通信との両立手法,電気学会論文誌C,Vol.134, No.8, pp.1031-1038, 2014.