画像処理 (Image Processing)
電子画像透かし
電子画像透かしとは、画像に情報を埋め込む技術です。情報として著作権者やコンテンツID、コピー可能回数などが主に埋め込まれ、著作権保護として利用されます。情報が埋め込まれても画像が劣化しないこと、多くの情報を埋め込み可能であること、埋め込まれた情報を正確に抽出することを理想として、様々な研究が行われています。
本研究室では、再撮影に耐性のある透かし画像の研究を行っています。再撮影された画像は、背景画像と透かし画像が組み合わさった画像となるため、両者を分離する必要があります。さらに、画像に加わる幾何学的変形やノイズを考慮する必要もあります。
上記の課題の解決のため、情報の埋め込みや抽出の際に画像の中の特徴的なポイントの分布を利用した手法を探求しています。この手法では、画像を劣化させることなく透かし画像の位置を取得することが可能となります。以下に示す画像は手法の概要です。
現在は、精度や処理速度の向上を目的として研究を進めています。
顕著性推定
本研究室では、画像内から人間の視覚的な注意 (=顕著性) を予測する研究を行っています。
画像内の顕著性を定量化するために、人間が画像内のどの領域に注意を向けやすいかを画素値で表した画像は顕著性マップ (Saliency map) と呼ばれています。以下が顕著性マップの例です。
本研究では、アイトラッカーを用いて被験者へ画像を提示した際の視線情報を解析し、畳み込みニューラルネットワーク (Convolutional neural network; CNN) によって生成した普遍的な特徴を持つ画像と統合することで、個人で異なる顕著性マップの予測を行います。
本研究から、人間と同様に視覚情報を取捨選択することが可能なシステムの構築が期待されています。
アクティブイメージング
画像を撮影する時,被写体に意図的な働きかけを行いながら撮影する手法をアクティブイメージングと呼びます。例えば,変調照明を照射することで画像中に時間軸情報を重畳しておき,変調情報を手掛かりに画像を解析することで,光学移動量の計測を可能にします。
背景
カメラ画像から被写体の移動量を推定する技術は,自動車の衝突回避,ロボットビジョン,遠隔操作インタフェースなど,様々な分野から求められています。従来は,連続的に撮影した2枚の画像から,被写体の移動量を推定するのが一般的でしたが,被写体の位置を対応づける処理が推定でしかなく,精度に限界があります。精度を高めるためには画像中の移動量を少なくすべきであり,高価な高速度カメラが利用されていました。そこで本研究室では,推定に依存することなく直接的に測定する手法,しかも安価なスチルカメラでも光学移動量を計測できる手法を探求し,ついに変調照明を用いる方法を発明しました。
測定原理
露光時間中に移動した物体には,移動開始場所から終了場所までの移動ブレが画像中に記録されます。しかし一定光源の下であれば,移動ブレ両端のどちらが移動開始かわかりませんし,そもそも移動ブレかどうかを特定することも難しいのです。
参考までに,動画撮影を行って移動開始直後の2フレームを用いた光学移動量の推定結果を示しておきます。円盤全体が動いたように検出されます。
そこで光源を工夫してみます。例えば露光開始時には赤い光を当て,露光終了間際には青い光を当ててみます。さらに,露光時間中の平均色が白色になるように,露光時間の途中には緑の光を当ててみましょう。円盤状のものが左から右へ移動していたことが明らかになります。3箇所の時刻が明らかになるので,速度だけでなく加速度まで測定できるようになります。
しかし,赤緑青の色が配色された固定被写体を移動ブレだと誤認識しては困ります。そこで,通常の被写体には模様として現れないような変調光源を用いてみましょう。
一見すると検出が難しくなったように思えますが,変調方法を手掛かりとして画像解析を行うことにより,次のように移動ブレだけを検出できるようになります。
左端の光学移動量だけを選択的に検出することができます。もちろん,右端だけを検出することも可能です。
このように,露光時間中に変調照明を照射することにより1枚の画像中に時間軸情報を重畳しておき,画像解析により被写体の移動を検出するのが測定原理です。
特徴
一枚の画像から光学移動量が測定できることは大きな特徴です。また,照明の変調速度を高速化することは撮像装置を高速化するよりも遥かに容易かつ安価に実現できるため,低速な被写体から高速な被写体まで様々な速度の被写体を対象にできます。さらに,以前から利用されている2枚の画像から推定する手法では,静止したディスプレイ中に写っている映像の動きを検出してしまいますが,本手法ではディスプレイ中の映像には影響されず,真に移動しているものだけを検出できます。
研究課題
現在は,最適な変調方法を検討しながら,高速な画像解析手法の開発を行っています。動きブレの中に符号を埋め込むなど,セキュリティ分野への応用も考えられます。
主な業績
- 石川智貴,矢向高弘,物体認識と視線解析に基づく視覚的顕著性推定,電気学会論文誌C,Vol.141, No.1, pp.76-84, 2021.
- Tomoki Ishikawa and Takahiro Yakoh, Saliency prediction based on object recognition and gaze analysis, Electronics and Communications in Japan, Vol.104, No.2, p.e12303, 2021.
- Kentaro Matsuo, Takahiro Yakoh, Position and Velocity Measurement Method from a Single Image using Modulated Illumination, IEEE 15th International Workshop on Advanced Motion Control, pp.353-358, March 9-11, 2018, Tokyo (Japan)